1. ホーム
  2. 研究紹介
  3. ICT支援による応用言語学的研究の展開

ICT支援による応用言語学的研究の展開

語学習得に強力な助っ人 コンピューターの助けで語学の壁を乗り越える

壇辻 正剛

壇辻 正剛
京都大学 学術情報メディアセンター
教授

  • 詳細を見る

日本人の英語下手

日本人は英語が苦手である。中学、高校と6年間、さらには大学に入ってからも勉強するのに、ろくにしゃべれない。TOEFL®という世界標準の英語テストの平均点では、中国や韓国に大きく水をあけられて、アジア諸国中の最低ランクに沈んでいる。

日本人が英語が苦手な理由の一つは、語順が英語とは大きく異なる点にある。英語では守護の後にすぐ動詞が来るのにたいして、日本語では動詞は普通文末に来る。ヨーロッパに英語を含めて数ヶ国語をしゃべれる人がけっこう多いのは、同じ系統に属する言語が多く互いの言葉が単語も語順もよく似ているからだ。アジアの言葉でも、たとえば中国語は、類型論的に英語と語順がよく似ている。それだけ、英語学習には有利なのだ。

二つ目の理由は、母音や子音の単純さだ。日本語には基本的にアイウエオの五つの母音しかないが、英語には例えばアとエの中間音のように、日本語にはない母音がいくつもある。子音の数も日本語より多い。自国語にない母音や子音は発音しにくいし、聞き取りもむずかしい。

コンピューターで発音を可視化

このように日本人の英語学習には、いくつかの高いハードルがある。明治以来の教育では長文読解に必要な文法学習が主だったが、最近はコミュニケーション能力が重視され、入試にもリスニングが取り入れられるようになっている。そして従来の発音練習では、ネイティブのあとについて発音をくりかえすほかはなかったのだが、コンピューターの助けを借りて、このハードルを突破しようとする試みが進んでいる。それがCALL(Computer-Assisted Language Learning)である。

京都大学・学術情報メディアセンター内にある、壇辻研究室は世界でも早い段階から、CALLの開発に取り組んできた。もともと言語学、それも音声学の研究室であるだけに、壇辻研究室が開発するCALLには「音声の可視化」という大きな特徴がある。例えば、口元のマイクに向かって“period”という単語を吹き込む。するとディスプレイ画面に音声分析の結果が表示され、[r]部分の発音が[l]になっていると表示される。さらに[r]を正しく発音するには、どうすればいいのかという指示が出る。それに従ってもう一度マイクに向かって“period”と吹き込んでみる。今度はうまくいった!このようにして単語の正しい発音練習ができるのである。

CALLの機能は、もちろん単語学習に止まらない。長い文章を吹き込めば、こことここの発音がずれていますよといった分析が示される。またCCDカメラで学習者の口元を写し、それをディスプレイ上でネイティブの正しい口元の形とすぐに比較できるといった機能もある。

大学や高校の授業で威力を発揮

京都大学に入ってくる学生は、英語の読み取りに強くても、聞き取りや会話が得意とは限らない。そのような学生はCALL教室で、将来、海外の学会で発表出来る英語力の習得に励んでいる。また第二外国語としてドイツ語や中国語の習得が義務付けられているが、CALLシステムは第二外国語の習得にも大きな成果をあげている。

今やCALLシステムは完全に実用化の段階に達しており、高大連携先の高校の英語教育にも積極的にとり入れられている。例えば20人の英語のクラスが始まると、それぞれが自分専用のディスプレイの前に座って、ヘッドフォンをつける。すると画面には外国人を時代祭に案内する教材が流れてくる。生徒が英語と同時に日本の歴史も学習できるように工夫された教材である。聞き終わると質問が文字で示されたり、音声で流れたりする。生徒はキーボードで答えを入力したり、マイクを使って音声で答えたりする。個々の生徒の作業を、先生はすべてモニターを通じて把握でき、個人別に指示やアドヴァイスを送れるようになっている。20人の生徒が学習しているにもかかわらず、教室内は静寂そのもの。時折音声入力の声が聞こえるだけである。

コンピューターの発達によって、語学の学習方法もどんどん変わりつつあるのだ。

(友野茂、2009年12月4日)